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最終更新日 2025年8月28日

情報発信元 経営戦略室

やまけんコラム「宝をつむぐまち」

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市長コラム「宝をつむぐまち越前市」

「昇龍」大阪万博に参上  VOL.27  令和7年8月

 

 JR武生駅(現ハピライン)に長年鎮座し、乗降客の目を引いてきた越前打刃物のオブジェ「昇龍(しょうりゅう)」を、2025年大阪・関西万博の公式プログラム「LOCAL JAPAN展 」に7月28日から4日間展示し、オープニングセレモニーに出席した。

 共同で出展した三木市の三木金物「金物鷲」と越前打刃物約3,000点を用いた「昇龍」は、それぞれ堂々たる存在感を放ち、二つの工芸のまち・ものづくりのまちから持ち寄った技と魂が響き合う空間が創られた。「昇龍」を前に足を止め、写真を撮り、越前打刃物の歴史や千代鶴国安の龍の夢の伝説に耳を傾ける多くの来場者の様子を大変うれしく思った。

 越前打刃物は、700年前に京の刀匠・千代鶴国安が越前の地に住みつき、その技を伝えたことに始まるとされている。もとより、いくつかの地名から想像されるように、古代から鉄文化はこの地に栄えていたはずだが、技術的な洗練と物流の変化によって、農業用の越前鎌が全国に広がったのが、そのころなのだと思う。
 そして、様々な刃物へと展開し、今日、とりわけ包丁は国内外のプロフェッショナルに愛される逸品となっている。

 味真野の「タケフナイフビレッジ」では、歴史を知り、共同工房を見ることができ、販売所もある。池ノ上にも越前打刃物振興施設「千代鶴の館」があり、近くには見学できる工場や素敵なショップもある。どちらも県外のお客さんを案内すると大変喜ばれる。

 そして、越前打刃物には、いくつかの逸話も生まれている。

 ヨーロッパの料理コンテストで審査用に提供された越前打刃物のステーキナイフを、あまりの切れ味と美しさに感激した審査員たちが持って帰ってしまった。そのステーキナイフは大変高価だが3年待ち。世界の首脳の集まる昼食会にも使われた。あるいは、日本中の一流料理人は、ある職人の包丁をこぞって求め、別の職人の包丁は、たいていの有名すし店で使われているとか。

 伝統工芸産業としては他に例のないことだと思うが、事業所数も従業員数も維持し、若い後継者が育ち、海外での売り上げを伸ばしているのである。

 打刃物に限らず、越前和紙や越前箪笥など、伝統工芸には、この地の里山や水が育んできた歴史と文化が息づいている。これを継承してきた人々の誇りや手の温もりが、感じられる。

 万博というグローバルな場での今回の展示は、本物の日本の文化はローカルの中にあり、それこそが世界に通用する力であることを知らしめ、また、再認識する機会であった。
 この千年受け継いできたものを次の千年にも継承していくこと、それが、今を生きる私たちの責務なのだと思う。

LOCAL JAPAN展オープニング 昇龍と金鷲
 「LOCAL JAPAN」展オープニング     三木金物「金物鷲」と越前打刃物「昇龍」
 
 

岸谷五朗氏、国府発掘に挑む  VOL.26  令和7年7月

 

 岸谷五朗氏は実にナイスガイだ。などと言うと、日本中の誰もが知る俳優さんに大変失礼だが、会うたびに、その人柄に魅了される。

 昨年の大河ドラマ『光る君へ』で、越前の国司となった紫式部の父・藤原為時を演じられたのだが、画面から優しさがにじみ出ていた。吉高由里子さんとの親子のシーンも素敵だった。

 関連番組の収録、大河ドラマ館のオープニング、パブリックビューイング、越前国府大使就任などで、何度も本市を訪ねられた。懇親の場もあり、たくさんお話を聞かせていただいた。舞台にかける熱い思い、若い人を育てようとしておられる様子など、演劇人としての情熱がほとばしる。演劇人の常か、お酒も大好きで強い。本市の誇る地酒、関西も絶賛だ。あるドラマ関係者に、「売れる役者は人柄もすばらしいですね」と申し上げたが、必ずしもそうではない、ということだった。やはり、岸谷さんは特別なのだ。

 岸谷さんには越前国府大使に就任いただき、越前和紙の名刺をお渡しして、宣伝をお願いしているのだが、その名刺がすぐになくなるくらい熱心に活動していただいている。俳優さんは名刺を持たない。生まれて初めての名刺だと、うれしがって使ってもらえるのが、ありがたい。

 さる六月十五日には、かねてからの希望で越前国府跡の発掘に参加された。当日は雨模様で、現場でやれるだろうかと危ぶんだのだが、岸谷さん登場のしばらくの間だけ、奇跡的に雨があがった。為時、式部親子が気をきかせてくれたようだ。

 発掘用の道具で何度も固い地面を削り、そして掘り出したのは、平安時代の須恵器のかけら5つであった。岸谷さんは、「掘り起こしたというよりも、そこにずっと生きていたものに触れたような感覚だった」と語った。国府があったであろうこのあたりの地中には、モノだけでなく目に見えない何かが、千年にわたって静かに眠っている。鋭敏な感性を持つ岸谷さんなればこそ、その息遣いを感じ取ったのだろう。

 今からおよそ千三百年に、北陸地方で最初の国府が置かれ、政治と文化、経済の中心となる。国境のない時代、海を渡ってきた人たちによって文明が伝わり、わが国独自の文化が生まれた。そして、千年前、紫式部は、都を離れてこの地に暮らし、見知らぬ自然、風土、そして多様な人々と出会った。覚醒した紫式部は、やがて『源氏物語』という世界に誇る不朽の物語を生み出すのだ。

 その日、岸谷さんは、以前ご自身の手で漉いた和紙に、世界の人々に向けて、こう書いた。

「From Tradition to Creation Bringing the Culture of Echizen into the Future」 ― 伝統から創造へ、越前の文化を未来につなぐ ―

 本市の越前和紙、越前打刃物、越前箪笥といった手仕事には、自然とともに生きる知恵、ものづくりのこころが脈々と受け継がれている。それを世界の創造都市に伝え、ネットワークへの仲間入りを目指す私たちへの心強いエールである。

 

 

発掘現場の様子  発掘された須恵器

      発掘現場の様子       
 

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