最終更新日 2025年8月12日
やまけんコラム「宝をつむぐまち」
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市長コラム「宝をつむぐまち越前市」
岸谷五朗氏、国府発掘に挑む VOL.26 令和7年7月
岸谷五朗氏は実にナイスガイだ。などと言うと、日本中の誰もが知る俳優さんに大変失礼だが、会うたびに、その人柄に魅了される。
昨年の大河ドラマ『光る君へ』で、越前の国司となった紫式部の父・藤原為時を演じられたのだが、画面から優しさがにじみ出ていた。吉高由里子さんとの親子のシーンも素敵だった。
関連番組の収録、大河ドラマ館のオープニング、パブリックビューイング、越前国府大使就任などで、何度も本市を訪ねられた。懇親の場もあり、たくさんお話を聞かせていただいた。舞台にかける熱い思い、若い人を育てようとしておられる様子など、演劇人としての情熱がほとばしる。演劇人の常か、お酒も大好きで強い。本市の誇る地酒、関西も絶賛だ。あるドラマ関係者に、「売れる役者は人柄もすばらしいですね」と申し上げたが、必ずしもそうではない、ということだった。やはり、岸谷さんは特別なのだ。
岸谷さんには越前国府大使に就任いただき、越前和紙の名刺をお渡しして、宣伝をお願いしているのだが、その名刺がすぐになくなるくらい熱心に活動していただいている。俳優さんは名刺を持たない。生まれて初めての名刺だと、うれしがって使ってもらえるのが、ありがたい。
さる六月十五日には、かねてからの希望で越前国府跡の発掘に参加された。当日は雨模様で、現場でやれるだろうかと危ぶんだのだが、岸谷さん登場のしばらくの間だけ、奇跡的に雨があがった。為時、式部親子が気をきかせてくれたようだ。
発掘用の道具で何度も固い地面を削り、そして掘り出したのは、平安時代の須恵器のかけら5つであった。岸谷さんは、「掘り起こしたというよりも、そこにずっと生きていたものに触れたような感覚だった」と語った。国府があったであろうこのあたりの地中には、モノだけでなく目に見えない何かが、千年にわたって静かに眠っている。鋭敏な感性を持つ岸谷さんなればこそ、その息遣いを感じ取ったのだろう。
今からおよそ千三百年に、北陸地方で最初の国府が置かれ、政治と文化、経済の中心となる。国境のない時代、海を渡ってきた人たちによって文明が伝わり、わが国独自の文化が生まれた。そして、千年前、紫式部は、都を離れてこの地に暮らし、見知らぬ自然、風土、そして多様な人々と出会った。覚醒した紫式部は、やがて『源氏物語』という世界に誇る不朽の物語を生み出すのだ。
その日、岸谷さんは、以前ご自身の手で漉いた和紙に、世界の人々に向けて、こう書いた。
「From Tradition to Creation Bringing the Culture of Echizen into the Future」 ― 伝統から創造へ、越前の文化を未来につなぐ ―
本市の越前和紙、越前打刃物、越前箪笥といった手仕事には、自然とともに生きる知恵、ものづくりのこころが脈々と受け継がれている。それを世界の創造都市に伝え、ネットワークへの仲間入りを目指す私たちへの心強いエールである。
発掘現場の様子
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