最終更新日 2023年11月27日
【第7回前編】 水路の自然再生のススメ ~ 水路と小川の今昔 ~
PAGE-ID:6635
第7回前編 水路と小川の今昔
昔の水路と小川
第7回では、田んぼの周りに張り巡らされた水路や小川に目を向けます。
今回は前編と後編の2本立てです。
農業の機械化が進む以前、50年くらい前の田んぼは、一枚一枚が小さく、水路や小川も素掘りでした。
水路も小川も田んぼや地形に合わせ細く曲がりくねり、田んぼとの段差もほとんどありませんでした(写真1)。
・これらの2枚の写真は、いずれも約50年前に撮影されたものと推定されます。
このような水路は、水草が生い茂り、うろ、ワンドそして淵といった魚たちの生息に適した場所がたくさん存在し、メダカ、フナ、タモロコ、ドジョウ、ナマズなどの魚をはじめ多様な水生生物が生息していました。
また、かつての水路や小川は、子どもたちの遊び場所ともなっていました(写真2)。
ほ場整備による田んぼと水路の環境変化
昭和40年頃になると米の生産効率を上げるため、ほ場整備が行われ、大型の農業機械が入れるように、田んぼは大きくなり四角形や三角形に画一化されました(写真3)。
これに伴って水路や小川の改修も進み、コンクリート護岸によって直線的になっていきました(写真4) 。
このような直線的な水路には、うろや淵といった魚の生息に適した場所は存在せず、水量が増えると水流は一気に河川まで流れ下ってしまいます。
また、田んぼの排水性を高めるため、水路が深く掘り下げられ、田んぼとの間に大きな段差が生じました。
最近では、用水のパイプライン化などによって、必要な時以外水の流れない水路も増えています。
そして、水路の途中や河川との合流部に段差が生じ、魚などが移動できなくなりました(写真5)。
こうして、多様な水生生物の棲める小川や水路が減少していきました。
写真5 用水路の途中に設けられた取水のための段差
水路に生きる生き物たちの今
かつての水路と比較して大きく環境が変わった現在の水路で、生きものたちにどのようなことが起きているのでしょうか?
一例を紹介します。
これは、市内のとあるコンクリート化された水路の合流地点に設けられた分水桝(ぶんすいます)です(写真6)。
このような場所は、水路自体の水量が少なくても水路の床面よりも低くなっているため、水が溜まっています。
この水溜りに水量の多い時に、河川などから水路に入り込んできたと思われる、たくさんの魚を見つけました(写真7)。
写真に写っている魚を数えると、わずか2平方メートルくらいの面積に、タモロコや絶滅危惧種のメダカやなど、数十個体の魚が確認できました。
この場所に溜まった魚たちは、再び豊富な水量が水路に流れるまで、ここから逃げることはできません。
エサになる生き物も豊富ではなさそうです。
このまま水路に水が流れず、水位が低下すると魚たちは死んでしまいます。
また、この場所には周囲の畦などから落ちてきたトノサマガエルもいました(写真8)。
カエルの仲間は、足の指の吸盤が発達した種類とそうでない種類が存在します。
よくガラス窓にへばりついているアマガエルなどの仲間は、吸盤が発達しているため、コンクリート水路の垂直な壁も這い上がることができます(写真9)。
しかし、トノサマガエルやアカガエルといったカエルは、指の吸盤が発達していないため、垂直な壁は登れません。
吸盤の発達していないカエルが深いコンクリート水路に落ちると、水量の多い時に流されて溺れたり、水路が干上がった時に乾燥したりして死んでしまいます。
このように、現在の水路は生きものたちに厳しい環境になっています。
では、どうしたら、生き物にやさしい水路にできるのでしょうか?
後編では、市内で行われている生きものに配慮した、多自然型の水路づくりについて紹介します。