新たな技術を使ったアベサンショウウオの調査活動【後編】

最終更新日 2019年10月3日

情報発信元 農政課

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新たな技術を使ったアベサンショウウオの調査活動【後編】

環境DNA分析を用いたアベサンショウウオの生息状況調査

前編で紹介した、アベサンショウウオ独特のDNA配列から作成したDNAマーカーを用いて、実際の生息地で採水を行いアベサンショウウオの生息状況を調査しました。

先ずは、西部地区でアベサンショウウオの調査をしてくださっている地元の方に、生息地またはその直ぐ下流の水を採水してもらいます(写真1)。

採水

写真1 採水の様子

採水された水は、他の生息地の水が混ざらないように慎重に専用のフィルターを使って濾過し、フィルターにDNAを吸着させます(写真2)

濾過

写真2 濾過の様子

※ 注射器の下にあるものがDNAを吸着させる専用のフィルター

濾過を行ったフィルターは、各生息地のサンプルとして城西大学理学部 化学科 生命化学研究室の石黒 直哉 先生のもとに送られ、実験が行われます。

濾材からDNAを抽出し、前編で紹介したDNAマーカーを使って、ターゲットとなるDNA配列の合成が行われ、ゲルと呼ばれる高純度の寒天の中で電圧をかけることでDNAの大きさごとに分離します。

その後、薬品でDNA配列を染色し、紫外線を当てると目的のDNA配列が合成されているかどうかがわかります。

図1は、それぞれの生息地から採水された水にアベサンショウウオのDNAが存在したかどうかを示す写真です。

    図1

図1 アベサンショウウオの生息地8地点における環境DNA分析の結果

 

写真の一番上に表示した「サイズマーカー」という列は、DNA配列の大きさを示す目印です。

その右に並んだアルファベットは、8つの生息地(AからH)における環境DNA分析の結果です。

8つの生息地のうち、5地点(AとDからG)からアベサンショウウオのDNA配列が検出されました。

青い色で示したアルファベットは、採水時にアベサンショウウオの幼生が目視で確認されている生息地です。

図1では、幼生が目視で確認されている3地点(A、F、G)の生息地以外に、採水時には幼生が確認されなかった2地点(DとE)にも、アベサンショウウオのDNA配列の存在を示す反応が現れています。

この様に、環境DNA分析では目視調査ではわからないアベサンショウウオの存在を検出できる可能性が示されました。

現在、環境DNA分析の精度を向上させるため、採水の回数や時期そして実験方法の改良や検討を進めています。

環境DNA分析を用いたアメリカザリガニの侵入調査

越前市西部地域には、10年以上前から外来生物であるアメリカザリガニの侵入が確認されており、様々な要因によって分布を広げています。

これまで、越前市が行った調査で、アメリカザリガニが一部のアベサンショウウオの生息地に侵入していることが確認され、幼生や卵塊がアメリカザリガニに捕食されることが心配されていました。そこで、このほかの生息地にもアメリカザリガニが侵入していないかを早急に調査する必要がありました。

しかし、越前市西部地域には、沢山の生息地があり、それら一つ一つを地元の方が調査をするのは、時間と手間がかかり困難です。そして、調査による生息地への悪影響も心配されたことから、環境DNA分析を用いたアメリカザリガニの侵入調査を実施しています。

今度は、アメリカザリガニのDNA配列を検出するためのDNAマーカーを作成し、これまでに、23地点の生息地を調査しましたが、このうち8地点からアメリカザリガニのDNA配列を検出しました(図2)。

今後、これらの生息地ではアベサンショウウオの 幼生が生息していない夏から秋にかけて、産卵場所の整備と合わせ、アメリカザリガニの駆除を行う必要があります。

ザリガニ

図2 アベサンショウウオの生息地23地点についてアメリカザリガニの侵入を調査した環境DNA分析の結果

写真の一番上のMの文字はDNA配列の大きさを示す目印(サイズマーカー)です。

数字はそれぞれのアベサンショウウオの生息地です。

まとめ

今後の課題

現在、越前市では環境省の支援をいただき、城西大学との協働により、アベサンショウウオを含めた市内に生息する数種の希少種について、環境DNA分析によるモニタリングを導入出来ないか検討しています。

しかし、稀少種の生息状況を把握する際に、環境DNA分析の調査だけで判断するのは十分ではありません。環境DNA分析は、新しい技術であるため検出精度向上や採水及び実験方法など検討しなければならない点もあります。

また、これまでの地元の方々の目視調査や専門家による捕獲調査も生息地の環境全体をしっかりと把握するためには大切なことです。

今後、地域住民の皆様そして関係研究機関との連携を深め、環境DNAによる調査と目視及び捕獲調査をうまく組み合わせ、生息地の環境を把握することで、希少種の保護・保全に役立てていくことが必要になります。

越前市では、今後の保全活動を検討するために年に1から2回程度、目視調査、環境DNAそして専門家による環境調査の結果を地元の皆様に報告し、意見交換を行う場を設けています。

研修会

写真:調査結果の報告と意見交換会の様子

この研究結果について

今回ご紹介した、環境DNAを用いたアベサンショウウオの生息状況調査とアメリカザリガニの侵入についての調査結果は、今後日本各地の希少野生動植物の保護・保全に活用していただく為、論文としてまとめました。

論文は、査読を経て令和元年7月に発行された、DNA研究の専門誌に原著論文として掲載されました。詳細については、下記の論文をご覧ください。

 

  • 日和佳政,藤長裕平,鈴木裕士,矢島美貴,石黒直哉 : 環境DNAを用いたアベサンショウウオ(Hynobius abei)の分布とその生息域におけるアメリカザリガニの侵入調査,DNA多型 Vol. 27 No.1:1-8, 2019.

 

また、この研究は平成30年12月に島根県松江市で開催された、日本DNA多型学会 第27回学術集会大会で発表され、多様な主体が連携・協働をしながらDNA技術を用いて希少種の調査・保全に関わっていることなどが専門家の方々に評価され、「若手研究賞」を受賞いたしました。

採水に協力していただいた地元住民の皆様、そして城西大学の石黒先生をはじめ実験に携わっていただいた学生の皆様には、深く感謝を申し上げます。

学会賞

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産業環境部 農政課

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